③ADVENTURES OF FELIX

 邦題: 「愉快なフェリックス」
 原題(仏): Drole de Felix
 出演: Sami Bouajila, Patachou, Pierre-Loup Rajot
 監督: Olivier Ducastel, Jacques Martineau
 1999年 フランス

 アラブ系フランス人でゲイでHIVポジティブの青年フェリックスが、「瞼の父」に会うためにノルマンディーの港町からマルセイユまでのヒッチハイクの旅に出ます。その旅の間に出会った色々な人々とフェリックスの交流を描いたロードムービー
 2000年の横浜フランス映画祭と、2003年の第12回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で公開されました。アマゾン.co.jpでの検索に引っかからなかったので国内での発売はまだのようです。


 フェリックスは陽気で、オープンな心の持ち主。彼はHIVポジティブですが、それは彼が病院で他のポジな人と情報交換するシーンと、彼が時間通りに薬を飲むという事実のみによって語られます。実際、フェリックスが薬を飲むシーンは頻繁に出てきますが、それは単に「持病があるから薬を飲む」というだけのような扱いです。
 また、フェリックスはアラブ系ということで差別的な扱いを受けることもあるし、旅の始まりに人種差別のリンチを目撃してしまうという事件(この映画の中で唯一事件と言えそうな)にも巻き込まれますが、それは一見したところ彼の人生に影を落としているというほででもなさそうです。相思相愛の恋人がいていい関係を保っているし。まさに邦題(原題)の通り「愉快な」フェリックスという感じ。
 旅の間にちゃっかりイイ男とエッチしちゃったりもします。もちろんコンドームつきで。青姦の後で相手の男がコンドームを藪の中に捨てようとすると、「ダメだよそんなところに捨てちゃ! ちゃんとゴミ箱にね」。フェリックスは単に陽気なだけでなくキチンとした人だということが分かるいいお話です。


 彼の唯一の心のわだかまりである「瞼の父」への思いは、旅先で出会う人たちとの交流の間に次第にほぐれていくのですが、それがこの映画のメインテーマのように思います。血のつながりはなくとも、出会った人々との間で築かれていく関係こそが「家族」なのだ・・・ということなのですね。それはフェリックスと人々との出会いのシーンではそれぞれ「弟」「おばあちゃん」「いとこ」「姉」「父」という字幕が出ることからもわかります。(もちろん全員ともフェリックスとは血のつながりの無い赤の他人です。「いとこ」とはエッチしちゃうのですけど、これはフランスではOKなのかな。)

 「おばあちゃん」は、「お父さんに会いにくのはやめたほうがいい」と言います。「姉」の3人の子供達の父親はそれぞれ違う男性なのですが、子供達の一人が「その3人の父親も、今のお母さんの恋人も、全員が自分の父親なのだ」と主張するのでフェリックスは困惑します。最後にフェリックスは「父」と出会います。もちろんそれは例の「瞼の父」ではなくて、これまた旅先で出会った釣り人のオジサン。「父」もまたフェリックスの旅の目的を知ると、「君や君のお母さんを捨てた男に会ってもしょうがないじゃないか」と諭します。そして旅の終着点マルセイユで恋人と合流したフェリックスは、「本当の父」よりも恋人との関係や旅で出会った「家族」達との関係を大切にしようと心を決めたように見えます。(具体的にそういう台詞は出てきませんけどね。)


 一つ一つの出会いのストーリーがどれも印象に残るのは、フェリックスが旅をする田園風景の美しさのせいだけではありません。今自分に与えられているものを愛しむこと。それが人生を楽しむということなんだろうなと思えてくる作品でした。