「大阪初」のバー

 さて、そんな訳で久々のイタリアンを堪能して店を出ると、今度はAさんが「○○さん(僕の苗字:Aさんはいつも僕を『苗字+さん』で呼ぶんです)、大阪で一番最初にできたバーって知ってはります?」と。
 僕はてっきりゲイバーのことだと思ったのでw、「それって堂山にあるナントカって店じゃなかったですか?」と言うと、「いやいや、ゲイバーじゃなくて、本当の『バー』ですよ。大阪で初めて『洋酒』を出したバー。この近くにあるから、一杯だけ飲んで行きましょう。」

 という訳で、その「大阪で最初に出来たバー」へ。
 行く道すがらお話を聞くと、創業はもちろん戦前で、そのお店がいまだに残っているんだそうです。
 ミナミ、恐るべし!


 徒歩5分ほどで辿り着いたそのバーは、商業ビルやラブホが立ち並ぶ中にひっそりと残っている木造建築。
 店頭には明るくて大きな電光看板があって、「洋酒 吉田バー」の文字が。「洋酒」って…ww いかにも時代を感じさせる名前です。でも、お店のドアの上にはアーチ状に「YOSHIDA BAR」の文字が貼り付けてあるのですが、その最初のYとOが抜け落ちていて、「SHIDA BAR」になっちゃってました(笑)


 大丈夫かいな?と思いながら店内へ。
 バーテンさんはもういい歳したオバチャンで、でも背中まである長い黒髪をポニーテールにし、白いシャツに黒いベストとスラックスという、ちゃんと「バーテン」さんないでたち。カウンター席は既に一杯で、僕らは奥のボックス席に通されました。二人がけのテーブルが三つと、四人がけのテーブルが一つありました。
 内装はいかにも昔ながらのバーという感じで、茶系をベースにした重厚な印象。

 ここでとにかくビックリしたのが、店の壁が全部ガラス戸付きの本棚みたいになっていて、その中に何百本…いやいや、千単位かも知れません、世界中の洋酒のミニボトルがズラーーーーーーーーっと並べてあるんです!
 ラベルの色の褪せ方からして、もう何十年そうして飾ってあるんだろうなということが伺い知れます。ミニボトルは未開封のものもあれば、中身の減っているものもあり。さらに、僕の席のすぐ横の棚には、ミニチュアではなくて普通の大きさのボトル、でも陶器製(!)がいくつも置いてありました。

 うわー、これは凄い! 酒好きにはタマラン光景です。
 一瞬携帯で店内の写真を撮ろうかなと思いましたが「いや、ここでそれをやっちゃあ野暮でしょう」と思い直して、しっかり記憶に焼き付けるべく、店内をくまなく見渡しました(←ちょと挙動不審な人w)。


 テーブルの上にはメニューがあるのですが、その中身が…「ウィスキー:××円〜 バーボンウィスキー:××円〜 」といったもの凄〜くアバウトなもの。一体どんな銘柄のお酒があるのかが、全く書いてありません。
 と言うことは、ほとんどどんな酒でも(ウィスキーやバーボンやブランデーなら)オーダーしたら出て来るということかしら??
 それをAさんに尋ねると、「うん、大抵のお酒は置いてあるよ。何が飲みたい?」とのこと。ひょえー、じゃあ何飲もう…



 やがてバーテンおばちゃんがオーダーを取りに来ました。
 Aさんはジンリッキーをオーダー。(この店でン十年前に初めてジンリッキーというものを飲んだのだそうです。)
 僕は、最近飲んで好きだなと思ってた「竹鶴」の12年ものを、ダブルのロックで。(一瞬「オールド・パー」も頭に浮かんだのですが、人様の奢りですので贅沢は言いませんw)

 運ばれてきたお酒は、さすが!という感じの高そうなグラス(めちゃくちゃ薄い)に入ってました。そして、置かれたコースターを見ると、「since 1931」の文字が。

 1931年って…78年前!? えっとえっと、大正時代ですよね?
 さすが「大阪で初めて」と、あらためて感動。
 Aさんのお話によると、いまバーテンをやっているオバチャンは創業者さんのお孫さんになるんだそうです。78年の間には、色々なことがあった筈。好景気・不景気の波ももちろん、大阪大空襲だって経験してきたんだなあと、その時代背景に思いを馳せると、なんだかタイムスリップしているような感覚になりました。
 


 でも、ここからが「ミナミ」の面白いところで…。
 お酒を持ってきてくれたバーテンおばちゃんにAさんが、「20年くらい前に、確か80代くらいの方がビシっと蝶ネクタイで正装してバーテンをされてましたよね?」と尋ねると、オバチャンはヨヨヨと泣きまねをしながら「そんなん言われたらお父ちゃん可哀そうやわ〜。お父ちゃん享年78やのに〜。80やなんて、そんな年寄りに見られて…お父ちゃんお墓の中で泣いてるわ〜」(爆笑)

 この「お父ちゃん可哀そうやわ〜」をおばちゃんは何度も繰り返すんです(笑)
 でもあの手馴れた演技から察するに、これは絶対にこのオバチャンの「ネタ」だと思いますw
 客の質問にイヤミで応える、さすが大阪・ミナミの水商売! 78年続く店はやはり違うww
 久々のミナミの風情を堪能しながら、美味しくお酒を頂きました♪



 帰り際、Aさんが支払いをして下さった折に、記念に領収証を貰って帰りました。お店の住所と電話番号を書いておきますので、興味のある方はぜひ一度行って見て下さい^^

〒542-0076 大阪市中央区難波2−4−6
 吉田バー
 電話(06)6213-1385〜6